■2004年8月17日(火)〜8月31日(火)■

8月31日(火) 打ち合わせは会社でやれば?(文責:タケ)
 昨夜の気落ちした思いが、本日午前中の糧となったか、せっせと働く。約束の仕事1本をなんとか片付けて気分爽快だ。で、夕方からは酒場の下見と打ち合わせで、また飲む仕事なんだから仕方がない。飲みたくなくても仕事であるから仕方がない。そう思うことにして2軒ばかり飲み歩きまして帰宅するわけであります。帰り道、私、打ち合わせした編集者さんに言いました。「あなたと打ち合わせをすると、いつもけっこう酒が入るねえ」すると編集者さん、答えます。「僕は、打ち合わせは会社でやるほうがいいんですけど」ああ? そうだったの? 最初に言ってくれよなあ。それなら飲まなくて良かったのに……、とは思いませんがね。

8月30日(月) 働こうよ、少しは働こう?(文責:タケ)
 1週間の始まりの日に思うこと。それは、今週こそ酒をセーブして、よく働こうということだ。そらそうだ。それが月曜日というものだ。そして、その儚い決意は夕方にもろくも崩れる。そらそうだ。それが月曜日の夕方というものだ。どこの飲み屋へ入ったって、月曜の夜ってのは週末並みに混んでいることが多い。なんでだろうねえって、週末、飲み屋へ行ってないから、週の頭に、行きたくなるんだ。私のように、週末にも蕎麦屋だ中華屋だって飲めるところを探している者でも、それはまあ、週末だけのイレギュラーな飲みであるから、週の頭は頭で、また、いつものとおり、いつもの店へと行きたくなる。条件反射ですね。引越しでもすればしばらくは生活が変わるかもしれないと思うけれど、それもまあ、もって1週間くらいのもんでしょう。1週間もあれば、新たな通勤路と自宅の近くに顔なじみくらいはできる。あっつう間のことですよ。とまあ、ウダウダ書いておりますのも、結局、月曜夕方の誘惑に勝てなかったってことの言い訳でさあね。本日は夕方にロック酒場の取材があって、明るいうちからまたまた酒場モードに入ってしまいましたから実は何の抵抗感もなく、実にスムーズに、本格的な飲みの態勢に移行したのでした。とはいえ、帰り道ではさすがに、ちょっと、気落ちしましたね。自分に言いますよ。なあお前、働こうよ、少しは働こう?

8月29日(日) 昼ビール、昼焼酎、夕方ビール(文責:タケ)
 日曜日なるも、午前中から取材で郊外の町へ。カメラマンと編集者と私と3人でご苦労さんです。なんですが、この3人、酒飲みですからねえ。仕事が終わるや、飲むのはわかりきったことなのだ。で、昼からビール。まずは蕎麦屋か中華屋かとしばし店を物色しつつ、ま、どこでもいいかというノリを大切に、うるさいこと考えずに蕎麦屋へ入る。こういうとき、なかなか店が決まらない人というのは困るね。やれ店構えがどうのと、ゴタクを言う人ですよ。まあ、その気持ち、わかるんですが、こちとら短気ですからねえ、1軒くらい通り過ぎてまた別を、くらいのことはついていけるんですが、2軒、3軒と、店先を覗いちゃ入らない、なんてことが続くと切れるね。前にあったのは、すごかった。本格的に飲みに入る前に蕎麦屋で腹ごしらえをしようということになって蕎麦屋を探し、店を覗くこと3軒、で、その3軒目でようやく入店だ。アタシはもうブチ切れている。でも、まあそこはぐっと我慢して、さあさあ、なんかつまんでビールでも、と思ったその瞬間、同行者は「ここで頼みますか」と訊くじゃありませんか。え? 頼まないの? じゃ、店を出るってことなの? もう、おしぼり出てますけど? ねえ。こういうことがあると、もう、その晩はまるでやる気なくなるね。飲む気しない。まあ、飲むんですけどね。店決めるったって、時間のかかる人というのは苦手なんだ。とはいってもね、本日の同行者2人はそんなこだわりの全然ない人。全然ない。自動販売機相手にだって飲めるクチですよ。だから店選びは速い。蕎麦屋です。そこで生ビール。つまみだけ頼んでガンガンと3杯ほどやって、さあ、蕎麦かって、蕎麦は蕎麦でも蕎麦焼酎だ。どれくらい飲んだかねえ。けっこう酔っ払った。日曜日の昼下がり、顔、真っ赤だ。3人は駅で別れましたね。さすがにもう1軒という話にはならない。ですが、1人になるというと、もう1軒という気になるのが不思議。昼からビール&焼酎が呼び水になってるんだ。それで、最寄り駅まで帰ってからもう1杯ということになるんですが、まだ居酒屋も店を開けてない。かくなる上は中華屋さん。餃子でビール。ラーメン頼む前にまたビール。いよいよラーメンかというときに頼んだのがザーサイ。で、またビール。そういえば蕎麦屋で蕎麦食ってなかった。たぶんこのラーメン屋でもラーメン食べないなあ、と思いつつ、レモンハイをご注文!

8月28日(土) 酒飲みが酒を休むとき(文責:タケ)
 周囲に、よく飲む人がたくさんいる。毎日飲むという人が多い。一方では、週に2日は必ず抜くという人もいる。中には週に4日は抜きますと言ってのける人もいるが、彼の場合は、週に3日くらい飲むというのが正解ではないだろうか。それはさておき、よく飲む人が酒を抜くときというのはどういう日なのか。週に2日は抜きますという酒飲みのお手本のような人であって、仕事の付き合いで飲むことが多い人がいたとする。彼が週に2日抜くためには週末に一滴も飲まないか、一人で少し飲みたい平日の夜に我慢をするということになるだろう。毎日必ず飲む人と、週に2日抜くという人との違いは、では、この、我慢ができるかどうかに掛かっているのだろうか。我慢できる、自制できる人は、酒を抜くことができ、その反対、我慢できない人、自制できない人は、結果として毎日飲むことになると考えられる。私は言うまでもなく後者であって、我慢ができない。自制が利かない。だから毎日飲むわけで、それは精神力という観点から見て、情けないことである。我慢しろと言われて、その理由も理解しているのに、我慢ができない。抑えが利かない。では、そんな私が飲まない日というのはどういう日なのかというと、実に単純な話で、飲みたいと思わない日である。日ごろの飲みすぎがたたって、1週間分くらいの二日酔いをまとめて引き受けるような日というのがある。飲みたくても飲めないし、飲みたいと思わない。だから飲まない。しかし、こうして、酒を飲まない数少ない日というのを探っていってみると、実はもうひとつ、我慢ができない、自制のできない私でさえ飲まない日というのがあることに気づく。それは、酒を必要としないほどに疲れたときだ。それも精神的なものではなく、肉体的に、とことん疲れたとき、必ずしも酒は必要じゃない。とことん働いて、疲れ切って、何か口に入れたら後はもう、ただ眠りたい。そんなとき、ハシゴ酒の誘惑なんてない。そういう夜が、もう何年もないなと、缶ビールを飲みながら思った。

8月27日(金) 金曜日か、じゃ、飲まなくちゃ(文責:タケ)
 連日飲みまくっていると、週末近くには、かなりヘバる。当たり前のことだ。けれども、金曜日を迎えると、あと1日しっかり飲もうという気になる。これは不思議なことだ。フリーライターという私の仕事の場合、本来、土曜も日曜も関係がない。なのに、金曜日になると、明日は休みなのだという気分になってくる。なんとなくウキウキした気分になってくる。たぶん、幼稚なんだろうと思うが、ウキウキしてしまうのだから仕方がない。しかも本日は、酒がらみの取材仕事が予定されていない。原稿を1本、なんとか納めることができた後では、飲まないわけにいかないのである。それで、また、馴染みの店へ行く。その近くの、もう1軒の店にも行く。顔を出すというのに近い。そうこうしているうちに酔いは回ってきて、だんだん抑制が利かなくなってくる。どうせここまで飲んでしまったのだからと、さらにもう1軒のことが、気にかかりだしたりする。典型的なハシゴ酒のパターンで、普段あまりハシゴをしないのだが、週末の一種の高揚が、ハシゴをさせてしまうのだ。そうやって、ようやく家へ帰りつく。もう、へとへとに疲れている。そんなに疲れるなら飲まなければ、と思うことも少なくないが、そこまで飲んで、やっと仕事が終わったような気がするのも、週末の不思議さのひとつかもしれない。

8月26日(木) 酒場仕事は酒で締めくくる其の2(文責:タケ)
 14時から銀座のロックバーで、特集の扉ページに使用する写真の撮影。万事滞りなく終了。時刻は15時。ああ、いくらなんでも早すぎるのだが、こんな時刻から店を開けているバーが近くにあっては、立ち寄らずにいられない。コリドー街を歩き、ふらふらと『ロックフィッシュ』の扉を開ける。一番乗り。気分がいい。さっそく角瓶のハイボールをもらう。ダブルサイズ。何か腹に入れておこうと思い、ホットドッグも注文する。ドッグとウイスキーは合うか。合う。と思いますよワタクシは。夏の夕暮れ。早いうちから飲む酒が好きだと昨日書いたのは私だが、本日は、夕方になる前に、酔っ払ってしまった。1日を締めくくるなんて恰好のいいもんじゃない。お前、少しマジメに働けよと、酒が言っているような気がした。でも、まあ、いいじゃないの。うまいんだから。

8月25日(水) 酒場仕事は酒で締めくくる其の1(文責:タケ)
 さて、ロック酒場を歩く仕事はまだ続く。本日は西麻布から代々木へと回る2軒取材。1軒目の店では、次の店もあるから飲まない。しかし、2軒目となると、そうはいかない。仕事中に飲むわけではない。あくまでも終了後のことなんであるが、そのまま客になってちょっと飲んでいこうかという話になるのだ。そのほうが、営業時間中の店の雰囲気も分かるし、店が少しヒマであれば、取材のときとは別の、少しくだけた話なども聞けたりする。それが、いいエピソードだったりすることも少なくない。だから、飲むのだが、本日もそのパターンで、取材もそろそろ終わろうかという段階になると、1杯くらいいいじゃないか、と、酒が呼ぶのである。そうねえ、1杯行きますか、と私も答える。それで1杯。この日はビールを頼み、串揚げを食べ、うまいもんだから調子に乗って、その後ホッピーも飲むことになった。それで帰るか。さすがに、その店、初めての店での長居はしない。しかし、酒はもう、ここで止めるわけにいかなくなっている。今度は仕事ではなく、1日の締めくくりにかかるのだ。向かったのは、代々木駅近くの『鳥芳』という店。ここでまたホッピーを飲む。「氷入れますか」。大将はそんなことを聞いてくれる。氷は入れない。冷えたジョッキでたっぷりのホッピーをそうやって飲む。ここは『酒とつまみ』創刊号の巻頭特集『中央線で行くホッピーマラソン』の第1回で寄らせていただいた店だ。そのときのことを告げると大将は覚えていてくれた。「あの本を見て訪ねてきた人もいたよ」。そんな嬉しいことも聞かせてくれた。私は、ホッピーをお代わりする。外はようやく暮れてくる。もう、盛夏ではない。そんな早い夜の酒が、私はことのほか好きだ。

8月24日(火) 銀座のクラブはオレを無視する(文責:タケ)
 本日も酒場におけるインタビュー仕事があった。場所は銀座。某高級クラブでタレントさんが、銀座とクラブでの遊びや酒の楽しみについて語るのである。こうしたクラブに足を踏み入れた経験はあるけれど、さすがに銀座だ。しかも一流店とあって、雰囲気が違う。ホステスもママさんも美人だし、落ち着いていて嫌味もない。さすがだねえ。しかし疑問もあるのだ。こういうところで飲むと、何か楽しいことがあるんだろうか。座ってボトルを1本入れたら7万円という。誰かを1人連れて行けば10万円を超える。どういう人が飲むのだろうか。ま、アタシには生涯ご縁のないところだろうから、それはそれで構やしねえ。なんて思いながら、一応のお務めを終了し、さて帰ろうという段になって、挨拶をする。「今度一度、プライベートでいらしてくださいな」。そんな台詞を期待していたわけではない。しかし、多くの酒場の取材をしてきた身としては、それが別れ際の、お店サイドの決まり文句になっているという固定観念がある。こちらとしては逆に、今度は仕事ではなく飲みに来ますと返す場面なのだ。ところが、このクラブでは、ママさんはもとよりホステスたちも、誰一人その一言を言わない。コイツには無理だ。そういうことが私の風体や仕草などからひと目で分かるのだろう。まあ、いいよ。いいんだよ。オレのほうだって来やしねえんだからな。そんなことを思いながら店を出るとき、どうも、やはり、「今度一度来てくださいな」の一言を言われたかったような気がしてならなかった。

8月23日(月) 自堕落な、あまりにも自堕落な(文責:タケ)
 午後1時。渋谷のロックバーに取材。今も、1曲ずつ曲を変える1曲がけをしている貴重な店で、酒やつまみも安い。以前にも飲みに行ったことがある。曲は70年代から80年代ごろのロックやアメリカのポップスが多く、懐かしい曲がかかると非常に嬉しかった。本日はその店の取材だから、飲むわけではないのだが、酒場というのは不思議なもので、カウンターに座ってマスターの話を聞いたりメニューを見ていたりするだけで、飲んでいるような気分になってくる(私だけか?)。取材を終えて仕事場へ帰った後も、すでにいったん切り替わってしまった飲み屋モードがなかなかもとへ戻らない。いいか。今日はちょっと早くから繰り出すか。そんなことを考えているうち、いてもたってもいられなくなり(私だけか?)、18時には近くの立ち飲みロック酒場『おかめ』へと足を運ぶ。早いなあ。いくらなんでも早い。まだ明るいし。でもまあいいか。飲んじまえ、飲んじまえ。自堕落な夏の夕暮れである。

8月22日(日) ベテランバーテンダーに父を見る(文責:タケ)
 午後から赤坂。俳優さんと女優さんの撮影に立ち会い、インタビューもする。これも酒がらみの仕事だ。Fという女優さんが、あまりにきれいなので、やっぱ違うよなあ、おい、と近くにいるスタッフの肩を叩きたいくらいだった。夜はスタッフたちと別れて渋谷。ベテランバーテンダーのいる店へ行く。久しぶりのことで、しばらくバカ話をし、混んできた後は、バーテンダーの姿をときおり眺めながら何杯かのウイスキーを飲んだ。年を取ったなあ。そんなことを思っているうちに、ふと、父親のことを思い出した。バーテンダーと、私の死んだ父とでは、年齢的にそう大きな差はない。バーテンダーが私の父であっておかしくない年齢差である。あえて老バーテンダーといおう。老バーテンダーとなってからも、この人は、こうしてカウンターの中に立ち、客を笑わせ、うまい酒をつくっている。ちょっと珍しい、それでいて、そう高価でもないシングルモルトなどを、試してみろよ、とばかりにさりげなく出してくれることがある。父を思い出すのはこんなことがあるからだ。父は、これほどうまいウイスキーを、飲んだことがあったのだろうかと。

8月21日(土) オリンピック観戦でノックアウト(文責:タケ)
 取材は終わった。最終日にはそれなりの盛り上がりがあり、当の子供たちに一種の感動もあって、オレがからむような話ではないのだな、と思える部分が多々あった。親御さんたちも品のいい、穏やかな方ばかりだ。この人たちに比べたら、連日飲んでばかりの自分なんぞは、クズみたいなものかもしれない、そうも、思った。しかし、複雑な、どうにもカタのつかない気持ちはいつまでも残った。明るいうちから飲む。連日の深酒で、ちょっとキツイのだけれど、やっぱり飲んだ。夜はオリンピックのテレビ観戦。で、また、飲む。体調はグダグダだ。もう、年なんだなあと思う。

8月20日(金) オレだってたまには「バカヤロー!」(文責:タケ)
 郊外取材2日目。午前中に、我が仕事場の金策をしてから、取材地へ向かった。するとその取材先では、小学生に企業経営を教えるセミナーが開かれていた。私が午前中にしてきたばかりの金策を、子供に教えているのである。これには驚いた、というより辟易した。取材場所の近くには、森があり、けっこういい川がある。気合の入った子なら、湖まで自転車で遠出できるような土地だ。そこの子供たちが集まって、エアコンの効いた部屋で原価計算をしているのだ。この原価では、最低何個販売しないと赤字になってしまう。そんな計画書ではお金は貸してもらえない云々。呆れて物が言えない。こういうことを企画している人が分からない。そこへ子供を通わせる親が分からない。抵抗しない子供のこともまた、分からない。40歳の大人が何かに忙殺されてひと夏の間好きなことをひとつもできないことにはなんの問題もない。40歳の夏も、50歳の夏も、変わりゃしない。しかし、10歳の子の夏は、かけがえがない。10歳の夏の思い出が原価計算では、取り返しがつかない。取材をしているうちにどんどん悲しい気分になってきて、それと同時に、だんだん腹が立ってきた。おいおい、子供に企業経営を教えるんだったらなあ、お前らがいつもやっている職場の愚痴を言い合うばかりの酒盛りのやり方も教えろよ。ネクタイを鉢巻きにして踊り狂う処世術を教えろよ。この、バカヤロー!  帰り道。酒を飲む気にもならない、嫌な気分がいつまでも治らなかった。

8月19日(木) 休みなき夏の疲れ酒(文責:タケ)
 この日から郊外都市へ3日間にわたって通う仕事が始まった。それでも初日のこの日は昼過ぎには予定分の撮影も取材も終了したので、編集者、カメラマンと一緒に蕎麦屋で飲むことにした。聞けば編集者氏、この2ヵ月ほど夏休みはおろか週末の休みもなく働き詰めであるという。「もう、今日は夏休みにしちゃおうかなあ」という一言が、なんだか哀れにも聞こえて、いったん蕎麦屋を引き上げて互いに仕事場へ顔を出した後に、ふたたび合流して今夜は飲みまくろうという話になった。私のほうも、かえって疲労を蓄積するだけの1泊旅行をしたのみで休みがなかったから、今日はもう働かないという、意見というかちょっとやけくそな勢いに、大いに賛同する気分であったのだ。そして選んだ場所は、編集者氏の自宅にも私の自宅にも遠くない郊外の某私鉄駅の北口。焼き鳥屋で焼酎をガブ飲みする。汗をダラダラ流しながら焼き場でがんばる職人の姿を見ながら、悪いねえ、こっちはサボっちまった、なんて思いながらガブ飲みをする。さて、腹も膨れてきた。どこへいこうか? なんかちょっと淋しい男二人連れのことである。恋しいのはやっぱり女だ。だからといって、弊誌のカメラSさんのように、外国人系を好むわけではない。となると、郊外においては必然的にスナックということになる。編集者氏が一軒知っているというので、そこへ連れて行ってもらった。ああ、おもしろいねえ。スナック。歌ってるよ、みんな。眉間に皺寄せて苦しそうな顔して歌ってる姿なんざ、なかなか壮絶だ。人のことなんか構いやしねえ。そのくせ、歌い終わると、おい、どーだったのよ? って視線を投げて寄越すじゃないの。誰も彼もがこんな感じだ。どーだったのよ? って? ばかやろ、聞いちゃいねえってんだよ、テメエの歌なんざ……。なんてことは言わない。絶対言わない。私は気が小さいからねえ。歌い終わるか終わらないかのうちに早くも派手に手を叩いてね、喝采しちゃう。お上手ですねえ、なんて言ったりもする。おおそれじゃ、あんたも歌えよということになって、断るが、そのあたりで、妙に色っぽいママさんとか、看板娘風のネエちゃん(これがちょっといい女だったりする)に「あらあ、聞きたいわあ」なんか言われるとね、気が小さいからね、歌う。何曲も歌う。疲れた。疲れた。駅前で編集者氏と別れ、向かったのは、人気のないところだ。どうにも気分が悪い。量から言えば、大した量を飲んだわけではない。しかし、どうにもならなかった。小さな駐車場を見つけるや、その奥の人目のつかないところへと急ぎ、吐いた。これじゃ、疲れが取れるどころか……。 

8月18日(水) 立ち飲みロック酒場に酔う(文責:タケ)
 夕方、某編集者が仕事場へやってくる。音楽雑誌の編集者。私は、音楽には詳しくない。私が担当させてもらうのは、ロックを聞かせる酒場の記事。やっぱり酒場だ。で、その取材のアポイントを取りながら、掲載店舗の打ち合わせなどをしたのだった。その後で、出かけたのは『おかめ』という一軒。我らが仕事場のある浅草橋から秋葉原へ向かう総武線ガードの下にある、ご機嫌な酒場だ。立ち飲み。壁にはロックスターのポスターが貼ってあり、音楽もロック。ここで、ホッピーを飲む。キャッシュ・オン・デリバリーで、魚肉ソーセージやスナック菓子なんかのつまみも買う。チーズやゆで卵なんかを齧りながらウイスキーのソーダ割りを飲むのも好きなパターンである。賑やかな店だ。おっチャンばっかりで、これでもかというくらい賑わう日も少なくない。マスターがまたいい人で、実にフランク。取材関係の頼みごとをするにしても、ああ、いいよ、おもしろそうだねえ、なんて、すぐにOKをくれたりする。とても、ホッとする。編集者氏は、酒は口ほどでもないらしく、しばらくするうちに酔っ払い始めた。それで正解。こういう店では、酔うに限る。私もグラグラくるまで飲んだ。

8月17日(火) 温泉で疲れが出てしまう(文責:タケ)
 昨日は、群馬県は四万温泉に泊まる。老舗宿には湯治場のような宿泊棟が残っていて、料金も安い。1泊に今回のような高い金を払う必要のある場合を別とすれば、できることなら安いところに長く泊まりたいと思う。以前にもこの宿に出かけたとき、仕事がらみで1泊しかできなかったが、ここで1週間、あるいは1ヵ月くらい、日がな一日温泉に入っては寝転がることを何度となく空想した。何もしたくない。そう思うことが、年をとるごとに増えている。温泉でゆっくり体を休めるというけれど、どうも最近はそううまく事が運ばなくなっている。湯に入ってはビールを飲み、昼寝をするのは、なにより好きだが、たった1泊の予定で行くと、逆に疲れてしまう。宿に着くや風呂に入り、ビールを飲み、食事の後で入り、またビールを飲み、寝る前に入り、あるいは深夜に入り、朝、寝起きでまた入る。こうなるともういけない。体のどこにも力がこもらないから、いつだってヘラヘラしている飲兵衛が、さらにだらしなくなる。浴衣なんて、まともに着ておられず、実に見苦しい感じになる。クルマの運転をしなくてはならないときなど、最悪だ。デロデロに疲れてクルマに乗り、運転を始めて30分もすれば睡魔に襲われるだけのことだ。日帰り入浴が人気を集めているようだが、あれ、疲れないのかねえ。と、まあ、そのような事情で、本日は群馬からはるばる運転して帰ってくるというのが、実に厳しい任務なのであった。早く帰って飲みたい。願いはもう、それくらいしかなくなってしまうのだが、そんなときに限って、道が混んだりもする。もういいよ。温泉じゃなくていい。家の小さい風呂でいい。それでいいから、ゆっくり汗を流して、うまいビールの1杯を、早く飲みたい。ああ、早くビール飲みたい。高速道路を走るクルマにとっては、きわめて危険な運転手なのであった。


最新酒記 8/1-8/16